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← トップページへ戻る 【小説、詩】

僕の旅8

 父の字が僕を記憶の彼方に連れて行く。父は変わった「し」の字を書く。しんに会いに行くという文字とともに日付が書いてあった。しんとは誰だろう?僕は疲れきった頭で考えたが、何も思いつかなかった。暑さを感じた。それとともに、父がいなくなったのは僕のせいではないか?と思われた。シャッターの閉まる音がする。子供の声がする。少年の声のような気がした。

 「お兄ちゃん、どこにいるの?何もない。ここには何もないんだ。知らないだろう?あなたは何も知らないだろう?」

僕の意識はぼんやりとしていた。すでに疲れはピークに達していた。僕はタワーを出て公園のベンチに倒れこむ。

「大丈夫?」

 おじさんによく似た男の人が立っていた。

「ついてこれるかい?」

 見知らぬ男は言った。僕は持っていた薬を7錠飲むと、少し身体が楽になっていく気がしたラジオをつけて、また聴いた。音楽が流れていた。クラシックの曲だ。モーツァルトかハイドンだったような。見知らぬ男は何かをさしだした。リルケの詩集だ。僕は受け取らずにぼんやりと男を見た。おじさんにとても良く似ている。だが、おじさんではない。僕は公園のベンチでラジオを聴き続けた。途中子供たちのはしゃぐような声が聞こえたのは、きっとそら耳だろうが、どことなく東京の今を思わせた。

 近くのマンション中の人々が僕に語りかけてくる。

 気づくといつの間にか寝ていたようで、空は少し白くなってきていた。疲れは少しゆるやかなものになってきている。傾きかけた電柱が見えたようだが、幻影だったのだろう。

 おじさんの家に一度戻ることにした。ウサギ男は現実にいるものなのかも、判断できなかった。いや、おじさんさえ、本物なのだろうか?

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