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僕の旅 4

 東京は人の多いところだった。いたるところに人はいて、僕の気は休まらなかった。周りの人間が僕の悪口を言っているような気がしたが、それもこれも気のせいだということを僕はなんとなく頭では理解していた。けれども、その頭で理解することと、それを気にしないことは、まったく別物であるということだ。僕はすでに東京の地に降り立って、今から、おじさんの住んでいる場所に向かおうとしている。おじさんは、防犯カメラのついているごくありふれたマンションに住んでいた。僕がインターホンを押して、名前を告げると、ドアが開いた。

「よくきたな。君のお父さんは確かに東京にいるようだ。あれから、探偵を使って特別なルートで調べてもらったが、クレジットカードの使用履歴が全て東京らしい。だが、それ以上のことは、高額らしく、調べられなかった。情報も金の時代だな」

 おじさんは僕にあたたかいなべをふるまってくれた。中にはお肉や野菜が入っていて、とてもいい味がした。僕はその日、旅の疲れをいやすように、おじさんが用意してくれた布団に入って、眠りについた。

 夢を見た。そこにはまたクロイヌが出てきた。

「君はどこへ行こうとしているんだい?君は誰を探しているんだい?君の中にいるものは、なんだか変なものだよ。君は変なんだ。そのことを理解してくれよ。ふふふ。笑いも起こるさ。君はまるで理解していない。この世界のことも、あの世界のこともね。どこなりといくがいい。そこに俺はいないだろう。だが、求めているものがあるとは限らないからな。この世界に神はいるが、すでに隠れてしまっている。だから、誰も神を信じちゃいない。君にはその素質があると思ってたんだがね。目をかけていたのに、残念だ。君は約束の地を離れた。それが、どんな結末をもたらすか。覚えておくといい」

 クロイヌの高笑いが、遠くで聞こえている。遠吠えのように、遠くから聞こえてくる。もう、クロイヌは行ってしまった。今日の会話は終わりだ。僕は何も言葉を発していない。にも、かかわらずクロイヌはしつように僕に話しかけてくる。何か理由があるのだろうか?と考えたところで目が覚めた。

おじさんが、おはよう、と言って、ご飯を用意してくれていた。買ってきたパンだった。だけれども、コンビニのパンよりはいくらか美味しいパンだった。おじさんの生活がかいまみえたところだが、おじさんは父のために探偵まで雇って、調べてくれたのだ。他に何か手掛かりがあるかもしれない。僕は思い切って聞いてみた。

「父と母に関する手がかりは何かないでしょうか?東京といってもとても広いです」

 おじさんはじっくり間をおいて、ゆっくりと答えた。

 「東京には4つの巨大なタワーがある。東西南北のそれぞれにね。そのどこかに、立ち寄った形跡があったそうだ。私は今日も仕事に行かなければならない。行ってみようかとも思ったが、すべてのタワーに行くわけには行かない。この近くにある一番近いタワーは北のタワーだ。行ってみるかい?」

「ありがとうございます。やみくもに探すよりかははるかにいいです。行ってみます」

 僕は人に道をたずねながら、東京の北タワーに向かった。歩くと1時間ほどかかった。焦るな焦るな。そう自分に言い聞かせていた。焦っては全てが台無しになる。それは、誰の言葉だったか、忘れてしまったが、僕の中には強く残っていた。北のタワーは、大きな姿を僕の前にあらわして、沈黙したように静かだった。

「ここは、もう誰も入れないんだよ」近くにいた人が教えてくれた。いや、教えてくれたのか?ささやいただけなのか?僕は不気味な想像をタワーの姿から想像した。父がタワーに変わってしまったという馬鹿げた想像だった。もう世界はすでに昼が来ようとしていた。何も手がかりのないまま、タワーを後にして、西のタワーに向かった。今度は電車を使った。電車の中で、誰かが僕のことを話していたが、それが誰で、なんの話をしているか、まではわからなかった。僕はこう考えた。父と母がいなくなったことを東京中の人間は知っているかもしれない。それで、何か僕だけが知らない重大な秘密があるのだ。そんな気がした。父と母はどこへ行ったのだろう?父は趣味のピックルボールを好き好んでしていたのを思い出した。ピックルボールをしている人をコートで見たが、父とは似ても似つかない人だった。

 母のことを考える余裕が少しずつ出てきた。母には東京に姉がいた。その姉の住所はおじさんに聞けばわかるかもしれない。だが、今はタワーに行くことがせんけつだ。西のタワーに着くと、西のタワーは無料でのぼれるようだった。僕はゆっくりと階段を一段一段と上っていった。

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