僕はあたたかな布団から出る。ただ、そのままに世界はあるのだろう、と思う。昨日、僕の父と母がいなくなった。書き置きはなかった。僕は途方に暮れたが、父方のおじが、父の姿を東京で見かけたという。僕は父とそして、母も一緒にいるだろうと思うのだが、そう信じたいのだが、2人を探す旅に出る。リュックに必要な荷物はつめて、家の全財産が入った通帳を持って、僕は家を出ることにした。学校から電話がかかってきても、誰もいないはずだ。事件になるかもしれない。それでも、今にも父は東京を離れるかもしれない。信頼できるおじさんは、僕が行くことを迎えてくれるらしい。おじさんは昔会ったきりだが、とても良い印象を持っている。
僕は家を出て、駅までの道をゆっくりと歩き(急いでも良いことはない、焦らず目的に近づくためには、それが良い)僕は新しい世界へと旅立とうというのだ。
駅で電車を待っていると、20代くらいのお姉さんが声をかけてきた。
「スマートフォンをなくしたみたいなんだけど、見てないかな?」
僕は正直に答えた。
「見てません。駅の係員の人には聞いたんですか?」
「いや、まだなの?この辺に落としたのかなあと思ってね。知らないなら、仕方ないね。しかし、君、まだ若いのに旅行?学校は?」
「僕は父に会いに東京に行きます。放っておいてください」
「あら、君がそんな冷たいこと言うと、私は気になってしまうのよね。君の名前を教えてくれるかな?その返答次第で、考えてあげてもいいのよ」
僕はこの人は何を言っているのだろう?と不思議になった。名前を教える必要もなかった。このまま無視して、電車に乗りこむだけだ。そのとき、電話を知らせるような着信音、男性アイドルグループの流行の曲が流れた。「あれ?」お姉さんはそう驚いて、持っていたカバンを手で探る。
「ごめん、あったわー」
僕はすでにその声を背に電車に乗りこんでいた。誰にも知られてはいけない。僕があの一件に関わっているなどと、言うことは。
話は10年前にさかのぼる。僕は誰にも知られていないだろう秘密の場所に来ていた。そこで、あの人と話すことになっていた。
「誰も他にいないか?」あの人はいつも僕にそう聞く。会った時はいつもだ。「誰も連れてきていないな?」何度も何度も念を押してくる。僕はゆっくりとその度にうなづく。
「ここにいるのは、神の姿を持った男だ。わかるね?」
僕はわかろうとつとめても、よくわからなかった。ただ、こう感じてはいた。目の前にいるあの人は信じられると。
そして、大人たちはあの人を探していた。あの人は何も感じていないように、そのことに触れることはなかった。
「神というのはむずかしいものだ。そのむずかしいものを俺は信じている。だから、俺は追われている。誰も信じてはいない。この世界に神がいるだなんて」
あの人は言ったことはそんな感じだった。僕はそんな昔をなぜ思い出したのだろうと不思議に感じた。あのお姉さんの関心に恐怖を感じたのかもしれない。ちょうどそれはあの人に対する大人たちの(父も母もふくめた)関心そのものだったからだ。
あの人はこう名乗った。
クロイヌと。