その日、世界は静かに壊れ始めていた。僕はただ、それを見つめているだけの自分を感じていたのだろうか?何も言葉にならず、何も世界はいらない。何か異質なものがここにあるのかもしれない。今日は何もしなかったわけではないが、できたことを数えるのはたやすいことではない。だが、成果として表れるものはある。僕はとりあえず彼と会話しようと試みた。
「どうしたんだい?君のなかに眠っている力を使いなよ。そしたら、何もかもうまくいくさ。そしたら、何もかも正常に戻るんだ。そのためには時間がいる。わかるね?僕のために君は時間を必要としているのだよ」
僕はそう言われて、何も浮かばなかった。何の言葉も出てこないのだ。それが今の僕の状態だ。本当に何もない虚無を描いているようだった。僕は本当に何もない空白の王のような存在になってしまった。何もない王なんて、くだらないなと思いながらも、彼の言ったことをもう一度思い出そうとして、失敗した。
彼は輝くことをやめてしまった。そのことは、何となく分かった。そして、僕のために一つの終わりを告げていることも何となく理解することができた。それでも、僕は僕でしかなかった。そんなむなしさがこみ上げてくる。彼はさらに言う。僕は彼と目を合わせることはできない。僕はうつむいて、ただ、彼の話を聞いているのだ。
「いいかい?力をこめるのは大きくなくていい。小さくていいんだ。とっても小さな力を続けなくてもいい。ただ、気が向いたときに使うのさ。そのことが何よりも尊いのだから。そのことを君に言っておかないとと、ずっと思っていたよ。ただ、いつの日か小さな力、とてつもなく小さな力でかまわない。それを、とてもゆっくりと使うんだ。そのことを、僕は君に伝え忘れていた。だから、戻ってきたんだよ」
静かな波が辺りを包んでいく。僕と彼は大洋に浮かぶとても小さな島に2人で立っているような気がした。それが、いっそ現実であってくれたら、僕は彼に抱きつくだろう。
けれども、そんな未来は永遠にやってこない。僕は感覚を研ぎ澄ませると、すべては消えてなくなってしまうからだ。ありがとう。彼に僕は話そうと思ったが、言葉は口をついて出なかった。悲しいことに、僕はもう生きてはいないような感覚におちいってしまった。僕はゆっくりと手を上げて、背伸びをする。大きな鼓動が僕の中を流れていく。誰も僕から真実を奪えない。
「いつか、君が言った言葉を思い出すだろう。僕はね。君の姿をずっと見てたいんだ。君の後ろをずっと追っていたかった。そして、そこから、さらに前へと進みたかった。でも、だめだったんだね。君は僕の姿を見て、笑ったね。さわやかな笑いだったね。真剣な笑いだったね。ありがとう君よ。ありがとう世界よ。ここまで言って、何か伝わった?」
僕は何も答えることができない。彼はだって、僕のなかのもう一人の僕なんだから。僕は彼に告げようと思う。君たちの未来は明るい。それでも、世界は明るいと告げ知らせる春の鳥だ。僕は彼のなかの異質性を自分の中に取りこむだろう。