彼は歩いている。彼の中にどんな気持ちがあるかは、よくわからない。それほど、彼の精神は何か異質なものをふくんでいた。彼の貧困化した言語性について、私は研究に研究を重ねた結果、何らかの理由によるものであるとの結論を得るに至った。その彼について、彼はどこからか、この区画に入ってきたらしい。彼の存在を感知したのが、だいぶまえだった気がする。その中で巨大な姿を見せる彼についての重なりに似た多重性を整え始めている。新たな風が吹こうとしている。新たな祈りが気づかれようとしている。その中で、彼は進み続ける。すでに人の領域にない。すでに世界の中にいる領域へと至っている。彼は家にいる。家にずっといて、彼の身の回りの世話をやくロボットとともに生きている。家事ロボットは3人いる。人型なので、3人と呼ばせてもらう。彼は生きている。家事ロボット3人は彼の生活全般のことをやってくれているので、彼は自分のしたい生活をすることができている。家事ロボットは料理から洗濯からすべて自動化されている。この世界にいても、彼は太らないで、生きている。なぜか?彼はテニスを楽しんでいる。そうだ。彼はラリーを楽しんでいるのだ。相手は、テニス型ロボットだ。そう。彼の世界に他の他人は存在しない。彼とロボットのいる世界があるだけだ。彼は自動車に乗ろうとすると、運転型ロボット(より正確にいうと運転手型人型ロボット)が運転をして行きたいところへ連れて行ってくれる。地域には様々な特色がある。ドール地区には、大きな肉屋がある。そこで、ロボットたちが、肉を売っている。その世界がある。世界にはその世界がある。そこで、ロボットたちはロボットたちの動力源であるRエネルギーを補充するために、地球の下から大きなエネルギーを吸い上げている。その1箇所がファイナー地区にある。ファイナー地区は重要な地域で、警備ロボットがたくさん配置されている。重要なロボット。街の運営をする判断などをするロボットはこのあたりに住んでいるのだ。その中で、ひとつの質感が彼の中に入ってきた。彼は生きていると知っている。その中で、巨大なムラクモが私の中からでてくるのだ。その中から世界に人が入ってくる予兆はない。ただロボットと彼が暮らしているのみだ。ロボットたちは、彼のために生きているといっても過言ではないかもしれないが、同時にロボットたちはロボットたちのために生きてもいるようだった。ロボットが彼を攻撃し始める日はいつなのか?天上の傍観者たちは、今か、今か、と待っている。しかし、彼は世界の中に埋没している世界の中であるから、まだその世界に到達しているはずもない。彼は戦うことはない。彼は世界の何かを人々のまえに露呈することなく、1人で生きることを選んだ。彼が家を出ようとすると予定管理ロボットが声をかけてくる。「どちらへお越しですか?」彼は短く答える。「私は世界の中にいるそれで十分だろう?」予定管理ロボットは沈黙して何も言わなくなる。それが予定管理ロボットの日常だ。ふいに彼は自らのうちに人々への敵意(彼を捨て去って残して別の場所へ去っていった人々への)がわいてきた。だから、私を連れて行かなかったのだな、と彼は信じている。それが、事実か、どうかわからない。人々はとにかくもうこの世界にいないのだ。運転手の形をしたロボットが聞いてくる。「どちらへ行きますか?」彼は短く答える。「ファイナー地区へ」「ファイナー地区は入ることができません。最寄りのカイザールセンターへは行けますが」「それでかまわない」彼はいう。そのまま世界は走り出す。車は走り出して、高速で運航されていく。すでに経路は決まって、進行スピードも決まっている。彼にとって快適な乗車感覚で運転されていく。ロボットは正確にドライビングをして、正確に世界を構築していっている。彼とロボットの関係が逆転し始める日は来るのだろうか?傍観者たちは、今か、今か、と楽しみにしている。カイザールセンターに到着すると、彼はセンターの中央部にいる高機能会話型ロボットと会話を始める。
「ファイナー地区へ行きたい」
「許可は得ていますか?」
「どうすれば許可を得られる?」
「中央委員会の許可が必要です」
「中央委員会というのはどこにある」
「ライオンの塔です」
「ライオンの塔というのはどこにある?」
「ライオンの塔は自然豊かな地区であるC253地区にあります。その地区に行くには、専用の列車でなければいけません。その列車の発着地はこの先にあります」
「そこまでわかればけっこう。ファイナー地区に非合法に入りたいんだが?」
「あなたはK様ですね。K様に許可は必要ありません。ただK様であるという証明が必要になります」
「私以外に生きている人間はいない。それを証明すればいいのか?血でも流すか?ん?」
「その物言いは人間のもの、すなわちK様のものであると確認しました。あなたは間違いなくK様です」
彼はそのまま、Kになっていった。まさにKからKになっていったのだ。