次の塔までの道のりはとても遠い記憶しか残っていない。実際とても遠い距離だったのだろう。いつの間にか僕は一人になって歩き続けていた。少し離れたところに青い猫がいたようないなかったような、そんなところだが、とにかく僕は歩き続けた。次の塔についてみると、僕は少なからずがっかりした。そこには一体のぬいぐるみ(クマのぬいぐるみ)が、ショーケースに入れられて置いてあるだけだったのだ。その他には塔の中には何もなく、閑散としていた。あたりには、まるできゅうりを切るときのような感触に似た生ぬるい感じの(暑くもなく寒くもない、ようするにかたくもなく、やわらかくもない)空気が漂っていた。私はそのぬいぐるみが、私が昔子供の頃に可愛がっていたぬいぐるみの「くまたろう」に似ていることがわかった。そのぬいぐるみはかなり年季の入ったものになっていたが、確かに、誰かしらかに大切に扱われていたような空気感がにじみでていた。私はショーケースをそっと外すと、くまたろうを手にとった。とても純粋な手触りがした。過去の幼年期を思い出すような手触りだ。過去のあの幼かった弱い(今でも弱いのだが)自分を思い出した。人を下に見て見下すようなところがあった。障害のある人を下に見ていた。その自分が障害者になった。これも何かの運命だろう。私は私を低くみることになった。そして、私の言葉は厳しくも、私自身への恨みともとれる感情を表していた。
「そのぬいぐるみはお前のものではない。そのぬいぐるみを元の場所に置いて立ち去るが良い。そうすれば、お前は救われるだろう。お前の幼年期は救われないが、お前の今は救われるはずだ。過去よりも今を取れ。今よりも未来をとるか?それもいい。とにかくお前は過去と訣別しなければならない。もう一度いう。そのぬいぐるみを置いて立ち去るのだ」
声の主を探すがどこにもいない。思えば僕はずいぶん遠くに来てしまったようだった。今着ている服では何となく寒さを感じてしまう。ここはどこだろう?地獄であることは間違いのないのだが?2番目の塔であることもおおよそ、間違いのないことだが、一体全体の中のどの辺に僕はいるのだろうと考える。あの不思議な場所から地獄にやってきて、どのくらいの時間が、たったのだろう。過去のことを思い出している自分を見つめる。くまたろうは私をじっと見つめたまま動かない。(愛情をありがとう)今度は別の声が聞こえた。くまたろうが言ったのか?とと思ったが、それっきりくまたろうにしゃべりかけても何も反応がなかった。誰が誰に何をどのように言っているのか?全てが霧の中にいるようだった。
終わりのない塔の階段があらわれ、わたしは登って行った。そこには一室があり、狭い空間にオールドショーケースが置いてあった。僕は何も考えずに、中を見ると、「ちゃん」がいた。あのどこかへ行ってしまった「ちゃん」だ。いつの日か消えていなくなってしまった「ちゃん」その小さな姿に私は涙する。おお、くまたろうとちゃんを見つけた。僕はくまたろうとちゃんを見つけたんだ。どこでって?この地獄でさ。それが皮肉に聞こえるかい?謎の奇妙な空間が現れては消えていくような感覚におちいってしまう。私は奇妙な偶然から、ちゃんとくまたろうを手にしたのか?くまたろうは小さな子グマに変身して走り去ってしまった。ちゃんはいつの間にか、またいなくなっていた。そうか。全部消えていくんだ。全部消えていくんだな、と僕は感じたままに言葉にした。
「聞いているか!地獄の悪魔!僕はお前たちに決して負けない。必ず生きて、この地獄から出てやるんだ」
僕は歩き出す。第3の塔を求めて、