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異世界旅行記13

 Sは私静かに考えを巡らせる。バランジューはどこかへ行ってしまった。すべてに私は1人になった。先には虚空が待っている。私の進む先には闇が待っている。その意味を考えるが、よくわからない。きっと私の世界の先には何もないということの現れであるようにも感じる。バランジューを呼ぶが、バランジューは返事をしない。かわりに猫の鳴き声が聞こえた気がした。私の前には大きな山があると感じる。とても大きな山だ。世界を私から奪おうとしている山だ。変換が私の過去を思い出させる。疲れ切った男山田さんの姿。パソコンをして、背を向けている山田さんの姿。冷静な中に大きな夢を持っていた山田さん。そのすべてがSの中に流れこんでくる気がした。誰かの意識が大きな波となって走り出てくる。私の意識も大きく走り出している。つらい。とても、つらい気持ちが出てくる。この世の全てが敵であるような。この世の全てが闇であるような。私にはここしかないという思いもある。私はここで生きていくしかないという縛りを感じてもいる。世界の中フィクションの中には、想像もつかない汚さがある。だが、その中に光るものもまたあるのだろうか?私は光を求めているのか?自分でもわからない。Sは懺悔した。私を許してください。Sは狂おしい目をした男だ。そして、やがて女になる。そんな絶望のための夜がやってくる。世界の中から、現実の空がやってくる。まどろみながら、夢を見ていたんだ。とても幸せな夢を。仲間と笑い合っている夢を。私は全て捨てた。私は何もかも捨て去ったのだ。

「バランジュー。君がどこかにいるなら聞いてくれ。君はかけがえのない友だったよ。君は僕のたった1人の友達だったんだ」

 バランジューは帰ってこない。あの別れは今も生き続けている。私はにこやかに空を見て、この世の底を見つめ続ける。意識体007は語りかけてくる。

「地獄は一つではない。地獄の中にある物語を変えていくのだ。それが、ひとつの聖域となる。あなたはあなたでしかない。あなたはあなたであるしかないのだ。そのためにひとつの記憶が生まれる。あなた自身の記憶だ。誰のものでもない。あなただけの物語」

 Sはバランジューのことは忘れることにした。考えても意味がなく、今すべきことは夜の闇を照らす光を見つけることだ。ここには闇しかない。

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