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異世界旅行記12

 Sは誰よりも静けさを求めている。だが、彼の脇にはバランジューという猫がいた。青いその猫は苦しみの象徴のように思われた。あの鬼はかつてSが触れた鬼のような人間の象徴だったのではないか?みなの心はどこにも行かないと知っているから、Sはここにとどまることができる。

「どこへいくつもりだい?」

バランジューは前足を舐めながら聞く。

「そうだな。ここではないどこかへ」

「ははは。そんな場所があるとでも?この地獄に?」

「君の意見は君の意見だ。わたしの意見ではない。私は信じている。私の可能性を」

バランジューは笑った。にゃあにゃあと聞こえたような気もした。

「その可能性とやらが、どんな姿を君に見せてきたか、知っているだろうに?君は本当にわからずやだな」

「バランジュー。君に私がいうべきことは何もない。誰も君を知らないだろうしね」

「私を皆が知らないだって?面白いことを言うじゃないか?この世界にあるすべての存在を屈服させたこのバランジューを知らないだって?なんという面白い冗談だ」

「君はもう鬼には戻れない。僕はそれを知っている。君は青い猫になった時から、大事なものを捨てたんだ」

 知っているとも、失われたものはたくさんあったさ。静かに私を嫌うものたちが、集まっている。祈りを捧げているようだ。

 誰かがコップで水を飲んでいる。そして、そのままコップは私に語りかける。

「お前の姿はどこまで行っても見えているぞ。わたしはお前に恨みを持つコップだ。わたしはお前を追跡する。お前の背中を追いかける。どこまで行っても、それは止むことがない」

 まどろみのなかで、そんな夢を見た気がする。失われたいくつかの顔がわたしの中から出てくる。

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