あらゆるものごとには始まりがあるという。Sはなおも、ゆるやかな勾配の中にいる自分を見つめ続けている。その中で、巨大な存在が、後ろからやってくる音がした。その中で、まだまだ存在している多くの人々が、Sを責め立てている。「Sよ。お前は何を考えている」「Sよ。お前は何もしていないだけの人間だ」「Sよ。お前は精神障害者なのだ」彼方から押しよせる自意識の波にあらがおうと船をこぐ船乗りたちがいる。その中で、Sは巨大なマストを固定しようと、必死に力を入れている。そのためのひとつの答えがここにはあった。その答えはあるにはあるが、誰にも明かされないような性質を帯びている。絶対的なクリスチャン的な審美眼によって、なされる彼方への憧れは、私自身の死を選び取るための鎖だったのだ。よくみるがいい魂の十二単のような、とてつもなく完成され、洗練されたその様を。見るがいい、その空中に浮かぶ夜への道はなおも失われた都市に続ているのだ。どこからともなくやってきた小人たちは、さらなる了解へと自らを没入させていく。「やあ。君たちは、どこから来たんだい?」奇妙な声がしてくる。どこから来たか?という問いは意味を持たないこのすべてがひとつとなったこの世界において、夜が波を押し寄せるように消え去っていくのだろう。どれほどの力をもってしても、その存在はゆるがずにあり続ける。どこまでいっても、その存在は私たちの価値を高め続ける。私たちの価値をそこに存在させ続ける。私は生きている。そして、私は笑っているのだ。そのことが、何よりも正しく人々を導いていくだろう。
「知っているのか?あの日の夕暮れの秋を」聞かれたSは何も言わずに首をふる。どこまで行っても、その先にあるのは沈黙だと知っているのだろう。ミスのない沈黙というゆるぎない性質を持った存在者。あなたはどこまで行っても、どこにも至ることはない。消えていったすべての存在はどこからか、あなたのもとへ帰っていくだろう。信じられないかもしれないが、あなたの世界はすでにこの夜の星のようにきらめているのだ。知っているのか?この事実に満ちた世界という偶像が、やがて、完璧な存在者となって帰ってくることを。意識の中で、私は世界を整え始める。私の子どもたちは、すべてに考えを至らせ続けるだろう。私の夜は、すべての太陽に暗黒をもたらすだろう。それでも、その暗闇に満ちた世界はどこまでいっても、夜のとばりでしかない。そのための何か意味のある性質をあなたに与えよう。きわめて空虚な堕落がそこには見え隠れしているはずだ。