わたしは歩いている。空には赤い巨大な星が輝いている。わたしは星に向かって歩くように進んでいく。方角は常に不可解なものだ。主観が主観のまま、わたしの前を通り過ぎていく。私が見ているこの星は現実のものだろうか?今では、とても巨大になり、とても大地に近づいているように見える。
「あの星には誰が住んでいるか考えたことはある?あの世界に夜があると思う?わたしはあなたに聞いているのよ。他でもないあなたに。わたしの分身のような半身。わたしの焦点の合わないレンズの向こうにいるあなた。どこまでいっても、あの星にいるのは、四つの角を生やした人間。彼らは木の枝を食べて生きている。そして、手のひらから、粉を出す。その粉をもとに、あらゆる動物が生まれてくる。地球でいう海みたいなものだろう。きっと今では4つ目の角は巨大なおもしろさをふくんでいる。わたしは何もない言葉に何もない終わりを告げているだけ。静かに物語が進んでいく時、あなたはきっとくしゃみをするだろう。だからこその、あなた。だからこその世界」
ここから、物語はじまりを迎えるようで、中年のおじさんのように少し停滞している。進んできた物語が1人の女を誕生させる。精神的な意味で、やわらかい。固定した性格や、性質を、もたない価値のあやふやな人間。誰にとっても、この人は、大切な誰かになりえない、と信じている。女自身が、自分自身を愛されないと信じている。その隣で、女を愛している男は、悲しみにくれている。
「あなたは静かに手を上げている。状態のままに、左手をあげてくれ。状態のままに、走り出してくれ。あなたは走れるのか?このようなマシュマロのような大地の中で?たいしたものだ。あなたは今やたいしたものになりつつある。小さい悲しみはどこまでいっても大きな喜びにはならないなんて、知っているはずもないか。あなたはどこまでいっても、チラシを配る1人の人間にはなれない。そして、人と心の底から何かを話し合える空間も持てないだろう。君は進むべき夜を持っている。進むべき朝をこえてゆけ!静かに眠り続けるがいい。明日は夜の辰年が、くれてゆく夕方から、炎を奪っていくだろう」
わたしは何ものも絶望しなかった。何ものもこの世界から絶望しなかった。だから、夜は空を上った。