失われた時は流れゆく時間を追いかけていく。わたしは過去について、考えるようになった。旅の途中で、火をたいて、暖をとる。そんな日に過去の夢を見た。過去の夢は過去ではなく、現在から見た過去の姿というだけなのであるが、その過去は今の私を形作ってると思われるものだった。だから、私は語ろう。その過去を。
虹色の服を着た男が立っている。顔の表情はよく見えない。霧の濃い場所のようだった。ところどころいろんなものに白濁の絵の具がかかり、見えないところがあった。わたし自身の顔もまた見えないものだった。わたしは必死にわたしの顔を探すのだが、わたしの顔は見つからない。昔会ったことのある誰それの顔は思い浮かぶのだが、決してわたし自身の顔はイメージを形作ることはない。
静かに波が音を立てている。誰もが人々を優しく見つめている。その中で1人の少女が泣いている。わたしはなぜ少女が泣いているか、なんとなくわかった。彼女は肉親を亡くしたのだった。そして、その悲しみのために泣いている。もうとても長い時間泣いているのだ。太陽が何度も沈み、何度も昇った。それでも、少女は泣き続けていた。そこで、目が覚めたような気がした。
ゆれる炎の中を何かが動いている。ゆれているのは、わたしの顔。顔だけがゆっくりと炎の中に見える。美しい炎のゆらめきの中を、わたしの顔が踊り続ける。そして、わたしの静けさが踊り続ける。よくある天使たちのラッパをわたしは吹こうとして、やめる。もう、この世界に希望はなくなった、と信じた。わたしは夢の中を1人で歩き続ける。にこやかな少女の笑顔。この顔は、わたしと一緒に旅をしてきた少女じゃないか?あの泣いていた少女ではないか?疑問はどこからか生まれてきて、どこにもいかず漂っている。そして、大きな渦が出来上がる。幾何学的な模様が私たちを包んでいく。どこまでも、遠くにどこまでもはるか遠くに、私たちを運んでいく。
わたしは目を覚まし、現実を見つめ直す作業に入る。わたしは少女を守らなければならないと不意に思った。そして、その願いはどこまでも果てしなく遠い大海原まで続いているかのようだった。わたしは静かに頭を下げて祈った。太陽の沈む方へ。