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空白のイデア(27)

 きっとここにあるものは、ここにあってはいけないものだったのだ。クの肉体。クの肉体は、精神的な物体としてここにあった。

私はここではない世界のどこかにあなたを見いだしたのだ。そのための鍵は何だったの?

 君は聞いている。何度も繰り返し長い年月をかけて、問いかけている。

 それでも、世界は答えない。私は何も答えなかったのだ。

 起こったことは単純だ。誰かが、作り上げた問題は、何にもよらずに作り上げられていった。そこから、あふれ出るものたちを残して。あふれ出たものたちは、外にさまよい歩くしかない。その存在ができることは、ひたすら歩く。より、抽象的な意味で歩く。時間を歩くようなもの。時間をゆっくりと進むのとおなじような風景を私たちに見せようとしている。大きな海は巨大な構造物をともなってやってくる。

 佐藤は一人の人間としてここにいるのか?と奇妙な疑問が湧いた。いや、違った。佐藤は1人の現実としてここにいるのだ。そして、そのために、あらゆる一緒についてくる現実とセットに生きてゆかなければならない。

 だからこそ、泣いた。心ゆくまで泣きたくなったので、佐藤は人目を気にせずに泣き続けた。涙はやがて洪水となり、海になるほどだ。だが、現実、そう、この現実とやらのせいで、佐藤は妻を思い出す。

 「とても悲しい物語なの。あなたを傷つけることはないけど、あなたを悲しませるような物語」

 妻は何も言わなかった。そう。死ぬときに、わずかに感じたのは彼女から立ち上る喜びだった。

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