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空白のイデア(25)

 妻が死んだのは病気ではないかもしれない。そう、佐藤は思い始めた。

 なんらかの大きな力が妻の命を奪っていったのだ。そして、妻としてあった存在はジェイクが見たような精霊的な存在へと変わっていき、肉体的には鈴木と同化していった。

 ジェイクも、鈴木も、妻を欲していた側の人間だ。それなのに、妻は私に何も残さないものだろうか?佐藤はなだらかに流れる大河を見ながら、1人違う世界のことを思い浮かべた。

 信者数は50万人をこえた。N教団はとても順調に進んでいる。赤ん坊がハイハイをして、立ち上がって歩き始めるように。だが、同時に佐藤はこの教団に足りないものも感じている。

 偶像である。

 その役目を妻に、いなくなった妻にやってほしいと感じた。その偶像を信者とともに崇めることで、佐藤は自らの孤独も癒されるに違いないと感じる。

 昨日教団に入ってきた強盗たちは、今日も教団の中をウロウロしている。そして、やがて悟ったら出ていくだろう。何を悟るか?

 それは、この教団は、ほんとうにからっぽで何も無い場所だと言うことに。ここには、怒りも悲しみも、喜びも、ドラマももちろんない。あるのは、ただ、他に世界に行こうとするこの世界の生命を捨て去った人々の群れだ。

「新しい偶像が必要だ。そのために妻が必要だ。探さなければいけない。彼女の生まれ変わりを」佐藤は決意する。

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