色々な問題が、色々なまま、過ぎ去っていく。時の音色の狭間に落ちこんだ佐藤は過去を思い起こす。
佐藤は他人を無視したことがあるか?と自分に問いかけた。あるかもしれないと思う。佐藤は、大きな心の問題を抱えていた。そして、もはや何も周りが見えなくなっていた。周りにいるのは、敵ばかりと感じていた。その中で、何ができただろう。人々の祈りはただ、むなしく佐藤を通過していった。佐藤はなくなった妻のことを思い出す。
一度だけ話したことがある。
佐藤の限界と佐藤の悪について。
妻は何も言わずに佐藤の肩に手を置いた。そして、ゆるやかな悲しみをその手にこめて、すべてを許してあげると言わんばかりに、強く握りしめた。
「あなたはよくやった。あなたはほんとうによくやったと思う。もう、自分を許してあげて。あなたは、もう十分苦しんだじゃない。あなたの苦しみもあなた以外の苦しみも、すべてワタシが連れて行ってあげる。海の彼方に。海の深く深く深くに沈んでしまうから」
「君は責めないのか?」佐藤が聞くと、妻は言った。
「話してくれてありがとう。私も一緒になって背負う。あなたの苦しみも、あなたの罪も」
佐藤は海の底にいるような気持ちになった。これは、クの意識の中かもしれない。
「聞こえるか?ク?君は何をしている?」
なめらかな物体がするりと動いた感触がした。
あなたはあなたです。
あなたはあなたです。
2回声がした。
私を読もうというのか?ク?
佐藤は自分が一冊の本になったように感じる。同時に喜びが、私を駆けめぐる。体がスキャンされているような熱を感じる。
あなたはあなたです。
クは最後にそれだけ言って、海のさらに深くに沈んでいった。