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← トップページへ戻る 【小説、詩】

空白のイデア(10)

 要するに、佐藤は鈴木のことが好きだったのだ。だからこそ、妻を渡したくなかった。鈴木が妻に一目惚れしたのが事実なら、あの日家を訪ねてきた鈴木に佐藤は一目惚れしたのだ。男が男に惚れるってのは、このことか。

夢の中で、言葉を探す。もっとそう。歴史的偉人に魅入られたNo.2、その表現がしっくりくる。今から佐藤とスズキの冒険の旅が始まる予感がしている。

 ひとりのお互いに愛した(それぞれの方法で)女性は、ついにこの世界からいなくなってしまった。二人の間になんのわだかまりさえない。だが、と鈴木は夢の中で半分考える。一体、市長になった私が、何をこれ以上するべきなのか、道が見えない。変な条例をつくったおかげで、支持者は減っていき、街の大物ミスターTにも目をつけられることになった。Tは市長選で鈴木の対立候補を支援していた。最終的には草の根運動で鈴木は辛くも勝利した経緯がある。

 Tは鈴木に言う。

「あわてることはない。まだ何も始まっていない。まだまだ何も始まっていないのだ。何もわかっていない。鈴木さん、あなたは何もわかっていないんだよ。この世界の何もね。悲しいことにそこに、あなたの想い人もいない。今回の件、あなたは負けだ。このTでも、やぶれなかった男をひとりの会社勤めの男がやぶった。ふむ。おもしろい。実に、おもしろい」

Tはさわやかな笑みを見せて、去っていった。

 佐藤と鈴木は目覚めてともに朝食をとった。二人の間には奇妙な絆が生まれていたのだ。

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