混乱と怒りの中で、夢から覚める。覚めた夢もまた夢の一部だった時に来る無力感。佐藤は、いかにこの人生を考えるか、いかにこの問題に対処するか、考え始めた。
妻の明恵は、言うだろう。
「あなたは、あなたでしかない。ゆえにあなたとの関係は、あなたと同じ意味をもつのです。だからこそ、一緒にいる意味があった。だが、あなたは、変質していく。どこまでも、変化していく。まるで呪文でほかの人物に化けるようにね。私は思うの、あなたは実は今では、佐藤ではなく、鈴木という肉体に入れ替わっているんじゃないかって?だとしたら、私が愛すべきは、佐藤としてのあなたなのかな?それとも、鈴木としてのあなたなのかな?」
鈴木は、言う。
「あなたは、あなたのままでいい。だが、それなりの代償は支払ってもらわなければなりません。つまり、あなたの妻をもらい受けに来たのです。これは、現実か幻想か?という問題ではなく、ただの等価交換なのです。あなたは、選んだ。あなた自身の人生を。思い出してください。あの日のことを」
ぼんやりと池に浮かぶランドセル。私は子供の頃に戻っていた。雨が降り注ぐ、ポツポツと傘に雨が当たって音をたてている。「なにをしているの?」どこからか、声が聞こえた。回りを見回すが、誰もいない。「どこに行こうとしているの?」また声がした。私の前には池しかない。なんと、大きな池だろう。今は水位が増して、今にもあふれそうだ。私は答える「ここじゃない、どこかへ。行こうとしているんだ。それは、姿を現さない君には、関係のないことだろう」声の感情が、少し冷たくなった。
「あなたは、どこまで行っても、孤独なのね。いいですよ。それでも。でも、その代わり、ランドセルのように浮かぶあなたを見たくはない。だから、あなたにとって、大切なあなたの未来を私は奪っていきます。それが、雷鳴としての私の役目。季節外れの豪雨の役目なのです」
佐藤は目が覚めた。妻が隣で寝ている。胸を触る。肘で反撃される。
ふと外を見ると、鈴木がカッパ姿で、窓の隙間からこちらを見ている。佐藤は、眠くなって、そのまま、眠りに落ちた。