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空白のイデア(33)

なにもない形がなにもない始まりを告げていた。消えた物語のひとつの始まりがいつか来る終わりへの序章として設定されている。動き続ける形のないものを私たちはなんとも呼ぶことができない。佐藤は亡くなった。最後は認知症になり、手足が動かない病にかかって介護を必要とする老人になっていた。その始まりも終わりも見つめていただろう鈴木は、いまだにあの日の幻影を追い求めていた。手に入れようと欲したけれども、手に入らなかったもの、として、今もなお、鈴木の心を支配し続けるあの女性。鈴木の胸のうちにあるかすかな炎は何かきっかけがあれば、また燃え上がりそうだった。そこに現れたのは、1人の女性。

 あの女性に似ている。とてもよくある偶然のような奇跡的な出会い。

 鈴木は老体がまだ衰えていないのを感じた。是が非でも、似ている女性”交差点の君”(なぜなら、交差点ではじめてその姿を見たのだから)を手に入れたいと願った。

 交差点の君は言う。「あなたが老人であり、私に強い執着を持っているのは知っています。だから、あなたのものになったとして、あなたは満足するのでしょうか?」そう、聞かれて、鈴木はなんとも言えない気持ちになった。そして、文字通り、何も発するべき言葉を持たなかった。そして、その老年の恋は今も続いている。たくさんの贈り物。たくさんの思いやり。全てを尽くした鈴木の前にジェイクがやってきた。

「いい加減にしないか!鈴木さん。あなた何人の女性の人生を狂わせるつもりなのだ」鈴木はジェイクに言う。「私そのものがずっと前から狂っている。そうでなければ、この国を支配などできはしない」ジェイクは首を振って去っていった。

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