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イマジネーター(1)

 ああ、私を見つめないでください。彼女はいつも感じている様子をありありと滴へと落としはじめている。6月の紫陽花が、咲きほこる公園で、話あっている二人。

「この物語は、一つのはじまりを契機として、つまりきっかけとして、動き始めているとおもう。その点について、君はどれほどの力を感じているのだろうか?私は君に聞きたいと思っている。この現実の尺度というものを」

 私は彼女の問いに何気なく浮かんだ空想をつかんで、静かに未来行きの列車に乗せたものだ。それが、今日では逆に彼女が空想をつかんで、私

行きの列車に乗せてきた。車掌は言うだろう。「ここにあなた宛ての荷物がありますよ。田辺さん」私は旧姓を思い出しては、笑みを浮かべる。ここにあったんだ。まだ、ここに私の中身はあったんだと変に驚いてしまう。今日から、この世界にまた田辺として、生まれ変わってやってきたというのに。十二部隊の一人”虎”の加藤は、私に言い放った。「どこまで行っても、田辺はさあ、田辺でしかないんだよ。不思議なリズムが君の武器さ。どこまでも聞くといい、世界のリズムを」私はなんとなく手に持った道具を調整しながら、聞いていて、聞こえないふりをすることに決めた。加藤は、そのまま、箱の世界へと旅だった。私が箱に来て、3日目に出会ったのが、彼女だ。雑念と親切さをあわせもった精神の彼女は、何事も対人ではなく、対自然としてとらえていたので、私も植物や、動物と同じように(ただ、その大きさ危険度は彼女にとって比べるべきもないが)見ていたのだろう。私にさきほどしたような質問を投げかけてきた。現代風に訳すると、こんな感じだ。

「あなたはどこへむかおうとしているの?あなたがそこへむかう理由は?そして、そのむかうに足る意思の力はどこから湧いてきているのか?」

 簡潔であり、完結している。圧倒的な素描性が、そこにはないものねだりをするアザラシのようにむきだしにある。彼女はじっと私を見ている。その片方の目に巨大な惑星が見え隠れしている。ホログラフィックによって、彼女の右目は、半宇宙と化している。私は彼女を見ている。正面からではない。数メートル離れた公園の遊具の上で。素速く鳥が、木々を飛び立つ。あっという間のできごとに、私たちは、ふと気が抜ける。

「私は・・・・・・」答えようとして、風を感じた。思わず言葉が止まる。少しつめたい風だった。やや下から上に吹き上がるようにむかってきた。私はそれを精一杯大きな息をして受け止めようよもがいた。そのスキに彼女はすでにベンチからたちあがり、都市の方向へむかおうとしている。「なぜ、都市へ行く?」私は、後ろから彼女に問いかける。彼女はなにも言わずに、手を振った。振り返らずに、背中だけが、彼女の旅立ちを告げている。

 純粋都市機構という一連の建造物群には、ある秘密がある。その建物は生きているのだ。生物的有機体として、つくられたアルノービル1号館によって、その有用性は、示された。思念体として、精神戦闘能力を有する構造物は、人類とイマジネーターの戦いにおいて、強力な兵器となった。イマジネーターをなんと表現したらいいだろう。定義するには、難しいが、人間のような精神構造をもった変換物(つまり、人間から何か別のもの)であるらしい。イマジネーターの出現によって、精神戦闘能力が、人間に問われ始めた。常に人類は解釈の折りをいつもたたみながら、過ごすことになる。りんごが木から落ちた。この事実そのものをどう解釈するかによって、人とイマジネーターの間で、日々戦いが起きている。イマジネーターAの言葉。「りんごは木から落ちるが、その先にある物体は規定されていない。なので、りんごは何かに当たって砕ける。砕けてから、ジュースになる。100パーセントのりんごジュースだ。しかしそこに、りんごのジュースを保管するものがないのである。だからこそ、リンゴの木から落ちたりんごはなにも残さない」イマジネーターの想像力が人間を包んでいく。問題は、このイマジネーターの言葉に影響を受けて、一定多数の人々が、リンゴのジュースを買い占めるという行為が起こった。そこで、政府の官房室は、秘密裏に予算を使って、イマジネーターを閉じこめるための架空都市をつくりあげた。そのひとつが、純粋都市機構と呼ばれる一群の都市だ。そこは、明確な看板によって、区分されている。「イマジネーター以外の侵入を禁じる」彼女がその都市に行こうと言い出したのは、今が初めてではない。これまでに2,3度彼女から誘いを受けた。私は彼女の冗談だろうと思っていた。だが、実際、彼女は十二部隊に志願して、その地位を手に入れた。私と同様に。応募したものは5000人を超えたが、選ばれたのは12人だった。十二部隊は、純粋都市機構に起こった異常の調査が任務だった。12人は政府対イマジネーター特殊連絡室で、訓練を受けた。10年間も。10代だった私と彼女は最年少だったが、すでに20代後半を迎えている。そこまでして、イマジネーターと戦う理由がないと、人々は、さめた目で見ていた。

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